亡き妹に会いに天上に架ける橋、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』

   写真で語るフォトエッセイ【連載18】

                              〈写真と文〉 佐 藤   繁

  亡き妹に会いに天上に架ける橋、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』

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                    ① 妹トシ

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                    ② 教壇に立つ宮沢賢治

  【1】この作品を書く動機は、亡き愛した妹トシに会いたいにあった。

人間は生物であるかぎり、いつかは亡くなる。
自分ひとりだけは例外のように思い込みがちだが、世界中ひとりの例外もない。
生まれた時から命は生きるだけの宿命の後に、死は必然としてやってくる。

これだけ科学が進歩して、宇宙の彼方にまで飛んで行けるのに、
死後の世界が科学的に証明できない。
宗教的立場に立っても、それぞれで、
魂の存在すら有ると信ずるか、完全な無とするかに大別されている。

科学者でもあり、宗教家でもあった宮沢賢治の37年の生涯を通して、
「最愛の人」は妹トシであった。
熱烈な宗教(日蓮宗)上の最も良き理解者でもあった。

2歳年下の妹トシは、日本女子大を出て、故郷の花巻高等女学校教諭心得となっていたが、
大正11年(1922)11月27日、23歳の若さでこの世を去った。

臨終の場面は、詩集『春と修羅』の中の「永訣の朝」や「松の針」、「無声働巽」に胸打たれる。

かえがたいもの、愛妹トシへの別れの思いは生涯続き、
「青森挽歌」などの長詩ともなったが、何よりも求めたいものは妹トシの魂の行方であった。

「銀河」という果てしなき宇宙に、当時としての最新式鉄道を走らせ、
亡き人の魂を追い求めた作品が『銀河鉄道の夜』となった。


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       ③ 震災後、宮城県石巻市の大川小学校に描かれた『銀河鉄道の夜』の壁画

  【2】『銀河鉄道の夜』物語。

主人公の少年ジョバンニ(イタリヤに多い名)は、午後の授業を終えてすぐに活版所に急ぐ。
父が働きに出たきり帰らないので、活版所で活字を拾うアルバイトをしている。

活字を拾って銀貨を1枚もらい、パンの塊と角砂糖を1袋買うと一目散に家へと走りだす。

ある裏町の小さな家。病気で寝ているお母さんと話をしながらの食事。
母の牛乳が配達されていないので、取りに出掛ける。

牛乳屋の黒い門を入るが、しばらくたってからまた来てと牛乳を受け取れない。
星祭りの日なので、からすうりの灯火を持った級友に会う。ジョバンニは黒い丘に上がって行く。

牧場の後の丘に上がり、つめたい草に体を投げ、
海の底のお宮のような町の灯りや遠く広がる野原を見渡しているうちに、昼の疲れで眠り込んでしまう。

いきなり目の前がぱっと明るくなって、気が付いてみると、小さな列車に乗っている。
夜の軽便鉄道に乗って「銀河ステーション」を通過した。

すぐに、自分の前の席に無二の親友、カムパネルラが座っているのに気が付く。
カムパネルラは、いつもジョバンニを気遣ってくれる思いやりのある友である。

二人を乗せた楽しい銀河鉄道はひたすらに空を矢のように走る。
赤十字や白鳥座に停車する。いろいろな人たちが乗ってくる。

りんごの匂いがして、家庭教師の青年に連れられた幼い姉妹が乗ってきた。
乗っていた船が氷山にぶつかり難破した。
ボートにとてもみんなは乗り切れない。
青年は姉妹だけは必死で助けようとしたが、かなわず、犠牲的覚悟を決め、海に落ち三人で死んだ。

タイタニック号の遭難(1912)を思わせる。
献身的行為で死んだ。この銀河鉄道に乗り、姉妹の母のいる駅で降りて行く。

ジョバンニがさびしく外を見ていた間に、カムパネルラが姿を消してしまう。
ジヨパンニは、胸を打ってのどいっぱいに泣きだし、不思議な夢から目が覚めた。

ジョバンニは丘を下りて牛乳を受け取り、川にさしかかると、
いっもジョバンニをからかっていたザネリが川に落ち、
助けようとして川に飛び込んだカムパネルラが行方不明となる。

ザネリを助けたカムパネルラが死んだ。
今まで銀河鉄道で付き合ってくれた親友は、死んで天上に行く途中であった。


 【3】生から死へ、「ほんとうの天上」を目指して銀河鉄道は魂を運ぶ。

『銀河鉄道の夜』という作品の主人公ジョバンニを賢治とし、
親友のカムパネルラを妹トシというふうに重ね合わせてみる。
死の世界に行ってしまった妹とともに幻想四次元の宇宙を銀河鉄道に乗って、
どこまでも共に行きたいと願う。

生から死へと銀河鉄道は走るが、死んだ者は二度と還って来ない。
いっも一方通行である。あの世の「ほんとうの天上」が、生の側にも死の側にも実現し、
両者に架橋された時、「ほんとうの天上」が明示される。

地上がみんなの自己犠牲のなどの献身によって「ほんとうの天上」になれば、
銀河鉄道は新幹線以上に生者と死者の魂の交流を図ることが可能になる。

この作品は、おとなの童話であって、単なる幻想の世界ではなく、
亡き愛した人への魂の交流を望む理想の世界への旅立ちであった。


         エッセイスト・『モンド通信』主筆
                ・横濱書館ペンクラブ会長
                ・東籬南山賞選考委員会会長
                ・〒254-0012神奈川県平塚市大神1981番地)




この記事へのコメント

かんさい情報ネットten、伊関亜美
2019年06月28日 08:01
伊関亜美、小股裕美
川原誠也
2019年06月28日 08:01
秋谷綾乃
かんさい情報ネットten
2019年06月28日 08:02
並大抵
宮沢賢治
2019年06月28日 08:02
宮沢賢治
中谷しのぶ
2019年06月28日 08:03
宮沢賢治

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