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zoom RSS 「 リュウタロウ 」

<<   作成日時 : 2016/10/24 21:00   >>

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    私の絵画館【この一作】画家の作品と随筆

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                                    小 島 け い

   「 リュウタロウ 」

  年の九月、このあたりの金木犀は咲きませんでした。

  このまま咲かずに終わるのかと思っていたら、
つい4〜5日前から一斉に咲きだし、
小さな庭をとりかこむように植えた30本の金木犀で、
今は秋の香りがいっぱいです。

 花は咲いたり咲かなかったりしますが、私の九月は例年、
絵をあと何枚と数えながら、自分の体力の限界と戦う日々です

 今年もずいぶんと大変ではありましたが、
それでも2年前にくらべれば、と思ったりもします。

 2年前の九月、あと2枚の絵を完成させねば・・・・と悩んでいた時、
一本の電話が入りました。
<リンガーハットというチャンポンのお店が
10月から始める”カキチャンポン”のポスターを描いてほしい>
という印刷会社からのものでした。

  ポスターは小学校以来描いたことがなく、
ましてや1日でというのはとても無理です、とお断りしました。そうしたら、
チャンポンの絵だけ描いて下さい。
あわせて椿の絵の画像を送って下さい。
後はこちらで何とかしますから、と言われました。

  椿の花は私も好きで、毎年のように描いていた頃もありましたし。
チャンポンの絵だけなら何とかなるかもしれない、
とついうっかり引きうけてしまいました。

そ れから、椿の絵の画像はちょうど家にいた相方にまかせ、
私は自転車で50分のそのお店に走りました。
ずいぶん長い間チャンポンというものを食べていませんでしたので、
実物を見るのが一番と思ったからです。

店員 さんに事情を話し、注文したチャンポンの写真をお店で撮らせてもらい、
後はもち帰りにしてほしい、とわがままなお願いをしました。

 困惑した彼女は、上司に聞いてきますと奥に入ったまま出てきません。
待たされている間、産業スパイ(?!)ではないかとか、
ポスターを作るというのは本当かなどと、
支店や本社を電話がいきかっていたのだと思います。

 10分以上たって、ようやくOKが出たということで、
二種類のチャンポンが目の前にあらわれました。
お店の皿に盛られたチャンポンの写真を何枚も撮り、
二つのチャンポンを持って大急ぎで家に帰りました。
そんなこんなで、結局絵にとりかかったのは夕食後でした。


夜は絵を描かないと決めています。
けれど今回はそうも言っていられなくて、夜中の2〜3時までかかり、
チャンポンの絵を一枚仕上げました。


パソコンのむこうで、ずっと待っていて下さったのがわかりました。

 翌日、それはチャンポンをまん中に、
四隅に椿を配した明かるいポスターになりました。
これまでずっと写真を使ったポスターを採用してきた会社の方も、
”イラストもおもしろいかも”と興味は示して下さったのですが、
椿ばかりがめだちすぎて”これでは椿オイルを使った新商品かと
思われてしまう”とクレームがつきました。

 確かにそうかもしれない、と私も思いました。

 すると今度は休む間もなく、
殻つきのカキが二つ並んだ写真が送られてきました。
このカキの絵と2種類のチャンポンの絵、
そして葛飾北斎の富嶽百景のような縦に延びた荒波を
描いてほしいと言われました。
”二回目のプレゼンは三日後なのでよろしく”とのことです。
私は絶望的になりました。
いつのまにか筆の遅い描き方に慣れてしまった私が、
しかも海は私にとって最も大変な題材で。
これまでに何枚か描きましたが、それぞれ1ヶ月以上かかりました。
それを一日で描くなんて・・・・。


 けれど、引き受けた以上、ダメでももがくしかありません。
とりあえず、カキを半日で描いて、ととりかかりましたが。
カキの殻は形も色もひどく複雑で、結局丸一日かかってしまいました。
デザイナーさんはその絵を”お見事です”とほめて下さいましたが、
喜んでいる暇はありません。
 
ややこしい海は後まわしにして、2枚のチャンポンを描くのにまた一日。
(慌てたので雑でしたが。)

 最後の海は、ヘタにまねをすれば著作権とかでもめそうで、
けれどこれまで自分でとった写真や画像に使えそうなものはなく、
もう幾晩も続く睡眠不足の朦朧とした頭でかろうじて形だけ描いて送った次第です。

 描いている私がこの波ではダメだとわかっていましたから、
いいポスターになるはずもなく。
結果は例年のように見事な美しい写真を使った
ポスターに決まったということでした。

 かくしてすべては無となり、私の怒濤のような数日は終わりました。

 今思い出しても、よく体がもったなあと思いますが。
世の中で働いている方たちは、
そんな限られた時間の制約の中で絵を描く仕事をしておられるのだと、
これまで知らなかった世界をかいま見た貴重な数日間でした。


 この子の名前は<リュウタロウ>。
宮崎の繁華街にあるビルのなかで暮らしています
飼い主さんは猫好き、馬好きの女医さんです。

 もう10年ほど前に、お写真をお借りして1度描きましたが。
大分の高原にある美術館での個展で、
一番最初にお客様がこの絵を買って下さいました。

 もはや写真もなく、当時は画像でも残していませんので、
かろうじて残っていた不鮮明なB5のコピーを参考に、
勝ち気なリュウタロウを描いてみました。

 いつの間にか月日がたちましたので、
今も元気でいてくれるといいなあ、と思います。





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