『Pursue and achieve your own dreams. ―クリントン氏の敗北演説―

    南のキャンパスの一室から 54

                                    南 部 みゆき

  『Pursue and achieve your own dreams. ―クリントン氏の敗北演説―』

 つらい出来事や困難にぶち当たったとき、
家族、友人、同僚などから背中を押されて立ち上がる、
というのは映画やドラマでは定石となっていますが、
その叱咤激励する台詞について映像翻訳家の高山美香さんが
書いているエッセイを興味深く読みました。
前向きに動くことを促すパターンとして、
“Try to move on”(踏ん切りつけなきゃ)や“Take a step forward”
(まず一歩を踏み出せ)などを紹介しています。
それでもウジウジしていると、“Grow up”(大人になれ)や、
“Get real”(現実を見ろ)などとお尻を叩かれる表現などが登場します。
大いにうなずいたのが、
近しい人の死や心の傷が大きい人への台詞の場合、
ぴったりな日本語が見つからず困る、というものでした。
例として、“It’s time to get over it”を挙げています。
ここでの“get over”は、「立ち直る」、「乗り越える」、
「克服する」などの意味がありますが、
確かに高山さんが書いているように、いくら親しい中でも、
「もうそろそろ立ち直ってもいい頃だ」と声掛けするのは無神経かもしれません。
“get over”は、なかなか翻訳者泣かせの表現のようです。

 今、まさに米国には、大統領選で優勢とされていたクリントン氏が
敗北した事実からget over しようとしている大勢の支持者がいます。
クリントン氏の敗北演説(concession speech)を改めて読んでみると、
悲しみに暮れる人を励ますのに役立ちそうな表現が出てきますが、
そこから3つ、キーワードとなる動詞に注目して取り上げたいと思います。

 まずは、“We must accept this result and then look to the future.”
(我々は今回の結果を受け入れ、未来を見据えなくてはなりません)
ここで言うaccept には、“真実として受け止める”という意味合いがあります。
つらい現実と向き合い、広がりのある未来に目を向ける、
という意味で1ook at ではなく、look to を使っているところも注目です。

 次に、演説の最後のほうで、特に若い女性に向けて述べた、
“This loss hurts, but please never stop believing that fighting for what's right is worth it.”
(今回の敗北はつらいものです。
しかし、正しいことのために戦い続けることは価値あることなのだ、
と信じ続けてほしいのです)
ここでも動詞hurt とnever stop ~ingを使うことで、
「確かに辛いけども~し続けて欲しい」と相手に同意しつつ、
歩き続けることを促す表現になっています。

 最後に、やはり演説の最後のほうで少女たちに向けて述べた、
“Never doubt that you are valuable and powerful and deserving of every chance and opportunity in the world to pursue and achieve your own dreams.”
(皆一人ひとりが価値ある力強い人間です。
そしてこの世界で皆さんに等しくチャンスが与えられているのだ、
ということを信じて、自分の夢を叶えてください)
ひときわ大きな歓声に包まれたこの一文は、
Never doubt~ から始まっています。
信念を持ち続けることの大切さを強調するのにぴったりです。
そして、pursue and achieveという2つの動詞を用い、
「目標の達成のために努力し続け」て、
「夢を叶えて」ほしい、とクリントン氏は少女たちに訴えました。

 敗北を認めた上でのトランプ氏の力強い演説には、
思わず胸が熱くなりました。





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